ハリナシバチ(スティングレスビー)ってどんなハチ?

 

 

とにかくあれこれちがうんです

「品種改良がすすんだんですね」なんてとんでもない。正真正銘の自然のハチが作る、混ぜ物無しの自然のはちみつ。ただ、違う部分が多いんです。


 

ハチなのに、刺さない

ハリナシバチはミツバチ科に属するハチの仲間、ハリナシバチ族(Meliponini)の総称です。名前の通り、ハチの代名詞である針が退化し、刺さないハチなのです。英語ではStingless Bee(スティングレスビー)と呼ばれています。ミツバチのように女王を中心とした社会性のある群れを作ります。蜜をためるのでハリナシミツバチという言い方もありますが、セイヨウミツバチや二ホンミツバチが属するミツバチ属(Apis)とは異なるグループの昆虫です。誤解を避けるため、蜜林堂では研究者が一般的に使用している、ハリナシバチという名前で呼んでいます。
 

ハリナシバチの分布 "after Sakagami"

 
ハリナシバチは体長3~10mmほどのとても小さなハチです。
日本ではなじみのないハチですが、世界中の熱帯・亜熱帯地域に広く生息しています。種類も非常に多く、ミツバチがミツバチ属という一つのグループで世界に9種しかいないのに対し、ハリナシバチには約50もの属があり、400~500種ほどが知られています。

ハチの巣なのに、6角形じゃない

針という武器をもたないハリナシバチは、外敵の侵入を防ぐために、木の洞や土の中に巣を作ります。外に突き出た筒状の出入りだけが,、唯一外の世界へと通じています。そのため出入り口の周りには、ひっきりなしに多くのハチが飛び交っています。
巣の中は迷宮のようなとても複雑な作りになっています。
ハリナシバチの巣には、ハチの代名詞である、きれいに整った六角形のハニカム構造がありません。代わりに、茶色い丸いつぼのようなものが雑然と並んだやや原始的な印象の構造です。このつぼは蜜や花粉をためるためのもので「ハニーポット」、「ポーレンポット」などと呼ばれています。

 


 

 
ミツバチの巣と比べた時に、形以上に大きく違うのが、巣の材料となっているこの茶色い物質です。これはハチの体からでた蜜ろうと、木の樹脂をまぜ合わせたもの、つまり天然の抗菌材料として名高いプロポリスです。ハリナシバチは、巣がまるごとプロポリスでできているのです。プロポリスの効果によるものなのか、ハリナシバチにはセイヨウミツバチでみられるような目立った病気というのがほとんど知れらていないそうです。

ちなみにセイヨウミツバチの場合、プロポリスは主に巣箱の外縁にだけ作ります。蜜をためたり、幼虫を育てる6角形のハニカム構造の部分は蜜ろうです。巣の構造をより効率的に進化させた結果なのかもしれません。

 

ハチミツなのに、「甘ずっぱい」しかも「サラサラ」

ハリナシバチのハチミツが、一般的なハチミツとは決定的に異なること―それは「味わい」です。初めて蜜を口にした方は、ハチミツのイメージにはないその甘酸っぱさに必ずといっていいほど驚きます。
 
この味の違いをもたらしているのもプロポリスです。プロポリスのハニーポットで熟成されたハリナシバチのはちみつには、プロポリスが自然に溶け込みます。はちみつ本来の花蜜の甘さに、 プロポリス由来のポリフェノール(フェノール酸やフラボノイド)が加わることで、特有の酸味や果物のような風味が生まれるのです。またプロポリスのおかげで、ハリナシバチのはちみつの抗菌性は一般的なはちみつよりもずっと高いことが数々の研究によって明らかになっています。
(注:ここでいう抗菌性は、ハチミツそのものの性質であり、薬のように食べて菌を殺すという意味のものではありません)

 


もうひとつの特徴がさらさらとした質感です。ミツバチの蜂蜜では 水分量の多さは、「熟成しきっていない」ことの表れとみなされますが、ハリナシバチの場合はそうではありません。熟成し、ハチがハニーポットにふたをして一定期間が過ぎた後でもさらさら。はちみつを巣からストローで直に飲むことができるほどです。水分が多くても、一般的なはちみつほど糖度が高くなくても常温で長期保存が可能なのは、プロポリスの抗菌効果のおかげと考えられています。またハリナシバチのはちみつは低温化でも結晶化しにくく、とても使いやすいことも特徴の一つです。

ユニークな特徴を持ち、優れた効果が期待されるハリナシバチのはちみつですが、ハチが小さいため、収穫量が少ないことが課題の一つです。一つの巣から取れるハチミツの量は1回でたった500gほど。年に3,
4回の の収穫です。希少なうえ、 遠心分離機などを使わず、小さなハニーポットから一つ一つ手作業で吸い上げるなど、手間がかかることもあり価格は普通のはちみつより高価です。
 

大切なのに、見過ごされていたヒーロー

熱帯雨林のなかでは、ミツバチを見かけることはそれほど多くありません。代わりによく見かけるのがハリナシバチです。実は森に限らず、街中でもよくみかける、ごくありふれたハチなのです。
ところが、はちみつが取れることは広くは知られていませんでした。手間のわりに、量が取れなかったため、産業化しなかったのかもしれません。
そんななか、マイナーだったハリナシバチに光があたりました。マレーシアを例に挙げると、ハリナシバチはちみつに、プロポリスの成分や、それに関連する高い抗菌性、高酸化力といった特殊な性質があることを農業省の研究機関が公式に発表したのです。マレーシア初のスパーフードとしてアナウンスされ、それまで小規模ながら一部で行われてきた養蜂技術とともに一気に普及したのです。
 

 
見過ごしてはいけないのが、農業省が、はちみつが体に良いということだけでなく、ハリナシバチの優れた受粉能力に着目したことです。
体が小さく、どんな花にでももぐりこめるハリナシバチは、もともと熱帯雨林にとって、とても大切な受粉役でした。その能力を農業に積極的生かすことで、農家はハチミツという副産物を得ながら収穫量の向上も見込めるようになりました。もともとマレーシア中にいるハチだったことに加え、刺さないという特徴のおかげで導入のハードルも低く、普及に拍車がかかりました。
ごくありふれた存在だったハリナシバチ、こうして一躍スターになったのです。
 
おいしく、体に良いハチミツを作るだけじゃなく、農業の役に立ち、自然にとっても大切なハリナシバチ。養蜂を通じて、地元の人々が身近な自然環境の価値を見直すきかっけにもなっています。
 
 
 
 
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